ふんだんに盛り込まれたデジタル技術、そして佇まいは上品でスタイリッシュ
アウディQ6 e-tronは、PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)と呼ぶ新しいプラットフォームを適用したアウディの新世代BEV(電気自動車)である。PPEはポルシェと共同開発したプラットフォームで、ポルシェ側では電動マカンが適用している。エンジンを搭載する車両のプラットフォームはPPC(プレミアム・プラットフォーム・コンバスチョン)が最新で、最新適用例はA5だ。

Q6 e-tronの全長×全幅×全高は4770×1940×1695mm(S lineパッケージ装着車は全幅が25mm広く、全高は25mm低くなる)、ホイールベースは2895mmだ。エンジン搭載モデルのQ5(4680×1900×1665mm)と同等のミッドサイズSUVということになる。
ラインアップは3つ。リヤにモーターを搭載して後輪を駆動するQ6 e-tron(車両本体価格839万円)と、フロントにもモーターを搭載する四輪駆動のQ6 e-tron quattro(998万円)、そして、やはり四輪駆動でハイパフォーマンス仕様のSQ6 e-tron(1320万円)だ。システム最高出力/最大トルクはそれぞれ、185kW/450Nm、285kW/580Nm、360kW/580Nmとなる。バッテリー総電力量はQ6 e-tronが83kWh、Q6 e-tron quattroとSQ6 e-tronは100kWhだ。
WLTCモードの一充電走行距離はそれぞれ569km、644km、672kmである。アウディジャパンが初のBEVであるe-tron(現在のQ8 e-tron)を国内に導入したのは2020年のことだった。e-tronの一充電走行距離は335kmだったことを考えると、500kmをゆうに超える航続距離に技術の進化を感じずにはいられない。受け入れ充電性能の進化もめざましく、CHAdeMOの最大充電出力はe-tronの50kWに対し、Q6 e-tronは135kWだ。より長く走れるし、充電時間も短くて済む(能力を備えている)。

Q6 e-tronはキャビンを後ろ寄りに位置させ、ノーズが長く見えるプロポーションとなっている。ゆえにスポーティ。リヤフェンダーは筋肉質な盛り上がりを見せている。いわゆる「クワトロフェンダー」で、フルタイム4WDを引っ提げ1980年代前半にWRC(世界ラリー選手権)で活躍した「アウディ・クワトロ」のブリスターフェンダーを引用したものだ。近年のアウディにはお約束のように取り入れられており、躍動的なスタイルの構築にひと役買っている。

フロントの上段にあるライトは複数の点灯パターンから好みを選択できるデイタイムランニングライトで、ヘッドライトはブラックアウトされた下段部分に配置されている。これも近年のアウディのお約束で、リヤコンビネーションランプのグラフィックは凝りに凝っている(リヤライトデザインの切り替えやコミュニケーション機能はSQ6 e-tronに標準、その他のグレードにオプション設定)。
インテリアは曲面デザインのデジタルディスプレイが目を引く。メーターは11.9インチ、センターは14.5インチのダッチディスプレイだ。欧州プレミアムの流行りに乗る格好(?)で、助手席側ディスプレイ(10.9インチ)がオプションで選択できるようになった。R/N/D/Bの走行モードはセンターコンソールの小さな四角いブロックを前後に動かして選択する仕組み。Individual/Dynamic/Comfort/Efficiency/Offroad Plusのドライブセレクトはセンターコンソールのスイッチのほか、タッチディスプレイでも切り換えられる。

フロントホイールから覗くブレーキキャリパーが車軸より後ろの配置となっていることから推察できるように、ステアリングタイロッドは前引きで、パワートレーンを縦置きに搭載する(多くの)エンジン車と同じレイアウトだ。一般論では、旋回時に前輪がトーアウト側に向くため車両挙動がアンダーステア傾向になり、スタビリティ確保の面で有利になる。

ユニット配置図を見ると、フロントモーター本体は前車軸より後ろ、リヤモーター本体は後車軸より前に位置しているのがわかる。つまり、重量物はホイールベースの間に位置。モーターは実質的にフロントミッドシップであり、リヤミッドシップだ。フロントとリヤのモーターの間には水冷の冷却システムを組んだバッテリーが搭載されている。重量物は低く、重心点近くに配置されている(少なくとも、重心点より遠くに重たいものを配置しないよう配慮されている)。

試乗車は前後にモーターを搭載したQ6 e-tron quattro advancedだった。オプションでラグジュアリーパッケージを選択していればエアサスペンションが搭載されるが、試乗車は該当しておらず、代わりに(?)S lineパッケージを装着していた。スプリングはSスポーツサスペンションとなり、ベース車に対して車高が25mm低くなる。ばね定数の高いスプリングのせいなのだろう、硬さをともないつつヒョコヒョコとした落ち着きない動きが出るシーンがあった。S lineパッケージは10を超えるアイテムとセットなので、ばねだけベースのままというわけにはいかないのが悩ましい。乗り味の面だけに限れば、エアサスが付くラグジュアリーパッケージがベターか。

システム最高出力は285kW、最大トルクは560Nmもあるが、車両重量は2410kgもあるせいか、フル加速を試みても持て余すほどのパワーは感じない。しかし、物足りなくもなく、必要充分である。いや、車重を考えれば充分に速い。片側1車線の山道を走ったが、コンパクトとは決して言えないボディを持て余すことはない。ライントレースに限っては意のままだ。

初期のアウディのBEVは回生ブレーキの調整手段が限られていたが、市場の声に応えるべく(?)、新しいモデルが出るたびに手段は増える傾向で、Q6 e-tronは多彩だ。デフォルトはコースティングで、アクセルオフすると空走感が強い。左側のパドルを1回引くと回生ブレーキレベル1になって弱く減速。もう1回引くと回生ブレーキレベル2になって、もう少し強く減速するようになる。

シフトセレクターを手前に引くとBレンジになり、回生ブレーキはさらに強くなって、基本的にはワンペダルでの車速コントロールが可能になる。停止寸前にクリープに移行せず、完全停止させることも可能だ。さらに、センターディスプレイでAUTOを選択すると、自動回生モードになる。先行車との距離が近づくとシステムが自動で回生ブレーキをかけ、車間距離を適切に保ってくれる。

回生ブレーキの操作手段は多彩なので、好みに合った操作を選択できるし、走行状況に合わせて切り換えられるのもいい。イメージに合った減速がしやすいので、運転のストレスがだいぶ軽減される。それに、減速時の挙動もいい。重心が低いおかげもあるのだろうが、リヤモーターの回生を上手に使い、ノーズダイブを抑える制御を行なっているからでもある。減速時に限らず、加速時も旋回時も安定しており、総じて動きは上品だ(それもあってなおさら、硬めのばねが気になる)。
アウディQ6 e-tronは、アウディのBEVとしての進化とエクステリア、インテリアのデジタル技術の進化が詰め込まれたモデル。そして、上品でスタイリッシュ。アウディの“最新“が体感できる電動SUVだ。

アウディ Q6 e-tron quattro
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4770mm×1940mm×1695mm
ホイールベース:2895mm
サスペンション形式:前5リンク式マルチリンク 後5リンク式マルチリンク
車両重量:2410kg
モーター型式:ECF-ECC
モーター定格出力:170kW
モーター最高出力:285kW
モーター最大トルク:前275Nm 後580Nm
駆動方式:AWD
バッテリー容量:100kWh
WLTC航続距離:644km
交流電力量消費率:167Wh/km
市街地モード:146Wh/km
郊外モード:158Wh/km
高速道路モード:183Wh/km
ブレーキ:前後ディスク
タイヤサイズ:前235/65R18 後255/60R18
車両本体価格:559万円